農薬情報局

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのセミナーから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

小・中学校家庭科教職員(食育担当)対象セミナー
食育を科学的に考える(東京)

2013年7月22日(月)

今回の講師は、この方たち
 
  • 【パネリスト】
    衛藤 久美 先生
    女子栄養大学
    栄養学部助教
    栄養学博士
    衛藤 久美 先生
  • 【パネリスト】
    松永 和紀 先生
    科学ライター
    松永 和紀 先生
  •  
     
  • 【会場】
    東京ステーションコンファレンス 501 「A+B+S」ROOM
    東京ステーションコンファレンス 501 「A+B+S」ROOM

【司会】 フリーアナウンサー 野菜ソムリエ 小谷 あゆみ さん

講座プログラム
  • 第1部講演:「学校における食育をめぐって
    ~食を営む力を育てる食育を考える~」
  • 第2部講演:「食の安全情報を読み解く」
  • ・開催日時:2013年7月22日(月) 13:30〜16:20
  • ・参加者:156名
第1部 学校における食育をめぐって~食を営む力を育てる食育を考える~

講師:衛藤 久美 先生

大学時代にコミュニケーション学を学ぶ中、家族で食卓を囲む重要性に気づき、大学院で栄養学を学んだ衛藤先生。ニューヨーク市における保健精神衛生局での勤務や坂戸市の食育推進委員としての経験から得た、食育に大切なポイントをお話いただきました。

  • 小・中学生の健康・食生活に関する課題
    実際には多くの課題がありますが、特に重要と感じられる課題を3つご紹介させていただきます。まず1つ目は「やせ体型とやせ志向の増加」です。標準体型の子どもたちの割合が減り、特に健康面で問題とされるのはやせすぎ・やせぎみ体型の割合が増えている点です。さらに2つ目は「体型と体型認識のゆがみ」。特に女子では約3割の児童が標準体型であるにも関わらず「もっとやせたい」という、自身の体型について認識のズレが生じています。これは必要以上に食べる量を制限してしまう食行動につながりますので、とても深刻な問題です。3つ目は「朝食の内容や状況」。朝食を毎日食べている児童生徒は多いものの、単調な食事内容や少ない料理品目、大人不在の食卓や、さらにはそれを子どもが望んでいる傾向は、良好とはいえない状況です。
  • 会場の様子(第1部)
  • 国内外における学校と地域が連携した食育実践例
    食事ではなにをどう食べるのか。子どもたちの「食を営む力」を育てる食育を考えるために、国内外2つの事例を紹介します。1つ目は埼玉県坂戸市の食育プログラム。坂戸市では食育推進委員会を発足して、小学5年生から中学2年生までの4年間に渡り、継続的に食育を行っています。オリジナルキャラクター「さかどん」を活用した親しみやすい工夫、食事バランスガイドや料理カードを活用し、「バランスゴマ」を使用した食事のバランス学習などを行っています。2つ目はニューヨーク市におけるクックショップ・プログラムです。これはNPO団体が実施しており、プログラムの内容は3つ。子どもたちを対象とした「クックショップクラスルーム」では授業を通して食物を体験的に学習し、大人を対象とした「大人のクックショップ」では、野菜の摂取が少ない低所得世帯に向け、毎回ひとつの野菜を題材に、保存法のレクチャーや調理法の実習を行っています。「スクールフードプラスカフェテリア」では学校の食環境改善の取り組みを行っています。
  • 会場の様子(第1部)
  • 児童生徒の食育を進める上でなにが重要か
    ご紹介した2つの事例には共通点があります。食育により知識を身に付け、その食品を食べることの知識と動機付けを踏まえて、子どもたちが実践できるようにするための学習が含まれている点です。子どもたちが実践や行動することが「食を営む力」であり、この力を育てることこそ食育。大切なのは子どもたちが学校で学習したことを「教室の中だけでの出来事」にせず、家庭をはじめ地域で経験を積み重ねることです。「食育で学んだ食材が給食や家庭の食卓に出てきた」という発見が新たな気付きを生み、その食材を食べるという行動につながりやすい環境を作ることで大きく学びが深まります。そのためには子どもが学習した内容と同じ情報を、家庭や地域、教職員など、子どもを取り巻く人々にも備えておくことが必要です。私たちは1日3回、間食のプラスαも含め、食べることを毎日積み重ねています。学ぶという経験、そして食べるという経験、この両方の積み重ねこそ、子どもの「食を営む力」を育んでいきます。
  • 会場の様子(第1部)
第2部 食の安全情報を読み解く

講師:松永 和紀 先生

大学農学部で大学院の修士課程まで進み、新聞記者へ。10年間勤めた後、さらに専門性を深めるために科学ライターへ転身。ひとりの主婦、母としての視点も大切にしながら活躍する松永先生に、食の安全情報についてお話いただきました。

  • 食のリスク
    科学的に食品の研究を行っている専門家の食品に対するイメージと、みなさんのイメージとは大きく異なります。専門家たちにとって食品とは、もともとリスクに繋がるようなものが入っている「グレーな存在」です。その問題を除去することでリスクがゼロになるといった単純なものではないと捉えており、食の安全を考える上では毒性物質や発がん性物質が含まれていないかではなく、「なにをどれだけの量で食べるか」という摂取する量が非常に重要であると考えています。どのような物質にも致死量があります。塩や砂糖も一時で大量に消費すると死に至ってしまいます。しかし適量であればまったく問題がありません。実はひじきには、発がん物質であると見られる無機ヒ素が多く含まれており、水戻しをして洗うことで含まれる無機ヒ素が水に溶け出し、除去しています。私たちはそのようなことを知らなくても、昔からの習慣に従うことで上手に量をコントロールして、食のリスクを管理している場合もあるようです。でも、研究が進んで「やっとわかった。対策を講じなければ」というものもあります。
  • 会場の様子(第2部)
  • 正しいことに目を向け、本当のリスク管理を
    食中毒予防の三原則「つけない」「ふやさない」「やっつける」。これも菌の量をいかに管理するかということなのです。菌にはいろいろな種類があり、その種類によっては微量でも身体に大きな影響を及ぼすものもあります。例えばO-157。これは子どもやお年寄りなど、お腹が弱い人がたった数個でも摂取してしまえば発症する場合があり、亡くなってしまうこともある。一方、同じ菌でも海の中にいる腸炎ビブリオは10~100万個ほど摂取しないと食中毒の症状は出てきません。だからお刺身は冷蔵保存し、菌の量が増えないように管理するのです。しかし天然物質の中には私たちが管理できないものもあります。カドミウムは土壌の問題もあり、どうしてもゼロにはできずお米に含まれてしまいます。だからこそ農家の方たちはカドミウムを抑える努力を日々行っています。このような「量のコントロール」や「生産者の努力」といった情報はなかなか伝わりません。知らないからこそ食の安全を単純に捉えがちになり、本当に注意すべきところに目が向けられなくなってしまうのです。
  • イメージ図
  • 食の安全に求められるメディアリテラシー
    安全面ではまったく問題がないのに、安心面が揺らいでしまうものがあります。例えば農薬について。昔は確かに毒性の強い農薬が使用されていました。その時の報道の印象は消費者の中に根強く残っています。しかしこの教訓から農薬の制度や基準はどんどん厳しくなり、いまでは毒性の強いものは激減しました。このことが伝わっていません。マスメディアは、情報を売るのがビジネスなのでどうしても、売れる情報を大きく扱いがちです。例を挙げると、ハムやソーセージに含まれる発色剤が「悪い」とされます。これは事実の半分です。確かに発色剤に含まれる亜硝酸イオンは体内でアミンと結合し発がん性を持つニトロソ化合物に変化するとされています。しかし野菜に含まれる硝酸も体内で亜硝酸イオンに変わり、その量は発色剤よりもかなり多いとみられています。また亜硝酸ナトリウムはボツリヌス菌の繁殖を抑え食中毒を防ぐ効果もあり、欧米では広く使われています。ここまでを記事にするべきなのですが、「発色剤は悪い」と言い切る方がインパクトがあって人々を引きつけるので、一部だけが大々的に報じられてしまったりします。みなさんには、メディアのバイアスに惑わされずに判断ができる、メディアリテラシーを身に付けてほしいと思います。
  • 会場の様子(第2部)
教育関係者の方々の関心は? ~質疑応答~

ビタミンCを摂取するために、食品添加物表示を頼りにビタミンCが含まれる商品を探している生徒に対し違和感を覚えました。適切な指導方法を教えてください。

質疑応答の様子
ビタミンCは、緑茶飲料などで酸化防止剤として使用される場合、一方で清涼飲料水などでは栄養として含まれている場合があります。どちらも同じもので使い方がちがっており、その表示の分かりにくさという問題は現在消費者庁で改善が検討されています。ただご質問の内容はそれとは別問題で、まず「ビタミンCとはなに?」という科学的な事実をきちんと伝えることが必要で、それを前提として食品添加物表示というものがどういうものであるかを指導していただきたいと思います。
(松永先生)

食に対して、なにを持って信じればいいのでしょうか?

質疑応答の様子
その学校や地域に合わせた食育を行っていくことが重要だと思います。そのためにはまず子どもたちの実体を把握した上で、その実体に合わせた食育を行う必要があります。誰が、どのような役割で、どんな人、どんな組織と連携して行えば、もっとも子どもたちのためになるのか、子どもたちの食を営む力が育つのだろうかということを考えていただければいいかと思います。
(衛藤先生)
ぜひ今日ご紹介した食品安全委員会の副読本などを一度見ていただきたいです。いままで手を出していなかったような食のリスクに関する本を手にしたり、少し情報収集を意識的に広げてみてください。それについてはひとりで行うのは大変だと思います。私がよくお勧めするのは、グループなどでの勉強会です。そういったみなさんの努力がストレートに子どもに伝わり、力となり、次の世代の食生活にきちんとつながっていくと思っています。
(松永先生)
まとめ
  • 学校という場で食育を行うということは、子どもの生活までを踏まえ、視野に入れた学習内容を、担任と学校内の教職員の連携、NPOや大学といった地域の組織と一体となって検討することが重要です。食育を行う側が一貫した情報を持たず、もし子どもたちが矛盾するような情報に出会ってしまった場合には、せっかく学んだことが机上の学習になってしまいます。学校での食育は生涯の食の基礎になるものです。ぜひ推進体制を整え、継続的な食育を実践していただきたいと思います。

    また、この10年で食の安全は進化しました。でもそのことはなかなか伝わっておらず、教科書もその進化に追いついていない現状です。疑問に思ったら情報源を遡る意識を持ち、食品安全委員会の副読本を読んだり、厚労省や農水省、自治体、研究機関などの発する情報をまずは見てください。いま消費者は、昔の公害や薬害などによる受動的危険から自らが情報に踊らされ、結果危険を選びとってしまう能動的危険に移行しています。その問題ある社会を変えるには、食育に対し責任を持って行おうとする、知識あるみなさんの力が原動力として必要です。
  • まとめ
講師からのコメント
衛藤先生
(衛藤先生)

多くの小・中学校の先生方の前でお話をさせていただき、私自身今まで関わってきた食育を振り返る良い機会となりました。受講者の方が熱心にメモを取りながら聞いてくださり、また事前や当日の質問も鋭い内容が多く、先生方が様々な課題や葛藤を感じながら日々食育に取り組まれている様子を垣間見たように思います。子どもへの食育は子どものみならず、家庭、地域への働きかけが重要です。今回の講演を通して、これからそれぞれの学校で食育を進めて行く上で、1つでも「やってみよう」と思っていただける点があったら幸いです。

松永先生
(松永先生)

みなさんとても熱心に聞いてくださり、セミナー終了後にも何人もの方々が質問に来てくださいました。
食の安全を守る考え方が、リスク分析へとこの10年で大きく変化したことが、社会にまだ浸透していません。それ故に、一般市民だけでなく教育指導をする先生方も、断片的な情報に戸惑ったり不安や疑問を感じたりしているようです。食品安全の関係者からの情報提供が足りないのだと思いますし、そこに私の仕事、役割もあります。
みなさんとのやり取りや衛藤先生のご講演でいろいろなことに気付かされ、私自身も大変勉強になりました。ありがとうございました。

セミナーに参加して ~教育関係者の感想~
  • ・栄養士を養成する大学も本市にあるので、地域の様々な組織と連携して、広い年齢層に幅広く食育を展開していきたいです。農協(農家)とも協力できる可能性も感じました。
  • ・家庭科の授業の中で、一人ひとりの食生活一週間分を記録させたりして、自分の食生活を見直す取り組み、実践力の育成につなげていくようにしていきたいと思います。
  • ・坂戸市、アメリカでの取り組みで、実践する力を身につける子どもたちの事例は大変興味深く、広く地域ぐるみで食育に取り組むことの重要性を再確認することができました。実際には家庭や小学校の周辺地域への働きかけの範囲ではありますが、今後子どもたちとともに食育をより進め、生きる力として育んでいきたいです。
  • ・児童に健康で楽しい食事を整えたり、味わう力を育てることが食育だということで、実践する気の起きるような取り組みをしていきたいと思いました。
  • ・授業ももちろんそうですが、保護者向けの講演(給食試食会など)で話したいと思いました。やはり保護者の方は、少し前は放射能、いまはもっぱらアレルギーという風にマスメディアの力で踊らされていて、そればかりが危険と思っている方が多いです。食品を科学的に見るという視点はとても大事だと感じました。
  • ・食生活と直接関係のある内容でした。食の安全はとても興味があり、正しい情報を自分の目で確かめ、伝えることの大切さを実感しました。
  • ・添加物、農薬、遺伝子組み換えなど、頭から危険と思ってしまうものが多いですが、正しい知識をまずは自分が身につけることで活用していきたいです。
  • ・毎日提供している給食は媒体と思っています。日々給食を使って子どもたちにどんな食材か、どこから来た食材かとの話をして、食に関して意識、関心が持てるように願っています。地域との連携、校内での職員の意識付けが必要だと思われました。