農薬情報局

防除の文明史

14.除草技術のあゆみ(2)日本:『雑草学』の発刊

明治維新とともに急激に導入された西欧文明は、日本の実状によく適合しつつ同化されてきた。日本農業が古い時代から悩まされ続けてきた大きな障害の一つに雑草がある。今回の主題は、雑草について初めて学問的に体系化した雑草学の本のことである。

著者・半澤 洵
半澤 洵(1879~1972)は札幌農学校(北海道大学の前身)で植物学を専攻して卒業し(1901)、母校に残り不朽の名著『雑草学 全』を著した (1910)。彼は1911年から3年間欧米に留学して発酵菌類を研究し、帰国後1914年、北大に日本初の応用菌学教室を創設した。ここで「半澤式改良 納豆製造法」を考案し、その製品は「文化納豆」と呼ばれて普及した。半澤が「納豆博士」とも称されたゆえんである。晩年は北大名誉教授、日本学士院会員に 推された。
『雑草学 全』のとびら
『雑草学 全』のとびら
『雑草学』について
主題の『雑草学 全』(本文304頁、附録151頁、東京:六盟館)は世界的にも先駆するこの分野の大著である。本文は「雑草の解、雑草の伝播、雑草の害、雑草の効用、雑草撲滅法、雑草の鑑定、雑草と其寄生菌」の全7章からなり、周到な構成
である。

第5章「雑草撲滅法」のうち「薬剤使用」について紹介する。
 1.酸類:石炭酸、塩酸、硫酸
 2.塩類:硫酸鉄、硫酸銅
 3.アルカリ塩類:石灰、食塩、過燐酸石灰、酸性硫酸加里、木灰
 4.有機質物:糞類(鶏、蚕)、糠、藁稈、石油、タンニン、松脂

また、第7章「雑草と其寄生菌」では、雑草への寄生病原菌の接種を奨めており、「雑草寄生菌類目録」が21頁にわたり記載されている。これはこんにち進 展しつつある雑草の生物的防除に先駆する卓見である。ちなみに、近年アメリカのR.チャルダッタンほか編『植物病原体による雑草の生物的防除』 (1982)という専門書が出版された。
ところで、アメリカのL.J.キングは『世界の雑草』(1966)のなかで、半澤の『雑草学』を初期の名著として紹介している。また、東畑精一は『農書に歴史あり』(1973)において「わが国雑草研究史上のまさに金字塔」と激賞している。
現代日本での農薬による水田の体系的除草技術などは、世界で最も高度なものと思われる。その背景には、『雑草学』のような名著が生まれた歴史的風土もかかわっているのではないだろうか。