農薬情報局

防除の文明史

6.シラミつぶし

よく「シラミつぶしに……」ということばを見聞きするが、今日ではシラミを実際に見たことのある人は少なくなってきた。シラミは「白身」の意で、ノミと並び称される小さな吸血害虫である。ヒトにはヒトジラミ(アタマジラミとコロモジラミ)およびケジラミが寄生する。

シラミとファッション
古代エジプト人は、アタマジラミを防ぐため髪を油やロウで固めたという。これは後世のポマードや、日本のびん付け油、椿油などの源流であろう。シラミの気門を塞いだり忌避効果を期待したものと考えられる。
17世紀になると、ヨーロッパではフランスを中心にして、カツラが紳士淑女のあいだで大流行した。このカツラの目的には諸説があるが、アタマジラミの寄 生を防ぐため、髪をごく短く刈りその上におとりとしてのカツラをかぶるという説が有力である(ジンサー、1934)。
当時のカツラの素材は本物の頭髪が主体であるが、それに絹糸を混ぜたり、金や銀の細い針金も使ったりして彩りをそえていた。現代の若い男女がカツラをかぶったり、髪を染めたりしているのを見ると、このシラミの故事を想い出して、つい笑いがこみあげてくる。
ちなみに、江戸後期には「しらみひも」を腹などに巻いてコロモジラミを防除した。このひもは水銀や殺虫成分を含むビャクブ(百部)根の煎じ汁にひたしたものである。
アタマジラミを払う
アタマジラミを払う。
(15世紀末、ヨーロッパの版画)
「DDTの歌」
ところで、ヒトジラミは法定伝染病に指定されていた発疹チフス(病原体はリケッチア)を媒介するので、終戦後 まもなく進駐した米軍はDDTを緊急輸入して、その10%粉剤を駅の改札口などで人体に強制散布した。おかげで、当初200万人以上と予想された罹病者は 3万人台でおさまった。
それで、小学校では「DDTの歌」が振付けつきで教えられた(1947)。その楽譜も残っている。歌詞は珍しいのでここに書いておくことにする。

 チン チン チフス 発疹チフス
 みんな嫌いだ 大嫌い
 お閻魔(えんま)さまより なお嫌い
 そこで撒(ま)きましょ DDT DDT

 ノンノン ノミも シンシン シラミ
 みんないないよ もういない
 おもてで元気に あそべます
 お礼をいいましょ DDT DDT

この劇的なシラミ撲滅作戦の成功は『DDT革命』(サムス著・竹前編訳、1986)と呼ばれ、日本再建の裏面史から逸することができない事績である。