旬素材の産地から 耳を澄ませば、シャインマスカット 荻原雅美(おぎわらまさみ) さん(左) 
売上の9割を占めていた巨峰に陰りが見える中、いち早く新種のシャインマスカットに取組み、収益をV字回復させた「ぶどう部会」があると聞いて長野県へ。JA中野市ぶどう部会で、部会長とともに480名の部員をまとめる副生産指導部長の荻原さんを訪ねました。
長野県の北東部に位置する中野市は、降水量が年間平均1,057mmと少なく、昼夜の温度差が大きい果樹栽培に適した土地です。ぶどうをはじめ、りんごや桃、サクランボなど全国的にも評価の高いくだものや、きのこ、野菜、花など多種多様な園芸品目を栽培しています。

日本農業賞「大賞」、受賞おめでとうございます!

写真向かって左/荻原さん 右/JA山田さん

荻原さん
ありがとうございます。日本農業賞集団組織の部で受賞させていただきました。でも、なんだか信じられない気分なんです。ぶどう部会の農家480人も、みんな驚いています。

え~、驚いている?

荻原さん
売上の9割を占めていた巨峰が落ち込み、不安を募らせていたのが平成23年ごろ。あれから5年しか経っていないのに、シャインマスカットが一人歩きをして、気づいたらこんなところまで来ていたという感じです。

「黒」でなく「緑」がヒット!

荻原さん
「黒系」「赤系」「緑系」のうち、当時は黒系(巨峰など)が主流で、まさか、落ち込んでいた緑系のぶどうがこんなにウケル(人気になる)とは思っていませんでした。

ぶどうのプロがわからなかった!

荻原さん
売れるぶどうは黒いものだと私たちでさえも思っていました。世に出してみたら意外に評価が高くて、逆にびっくり。今では長野県内では、皮ごと食べられる黒系=ナガノパープル、緑系=シャインマスカットの2本柱になりました。

2回目の受賞ですね!

JA中野市営農センターに翻る「大賞受賞」の懸垂幕

JA山田さん
はい。JA中野市ぶどう部会は、集団組織の部で31年前にも大賞をいただきました。2度の受賞は全国的にも例がない快挙だそうです。

受賞理由はなんですか?

JA山田さん
先ほど荻原さんが言ったように、JA中野市ぶどう部会が全国に先駆けて「シャインマスカット」の産地化を進め、売上をV字回復したことが評価されました。ぶどうの消費低迷の流れを変えたところに、インパクトがあったと思います。

百貨店では、一房5,000円です!

JA農産物直売所 信州いきいき館にて

荻原さん
この状況がいつまでも続くとは思っていませんが、市場のニーズにしっかり応えれば、信じられないようなことが起こると実感しました。

売上の推移を教えてもらえますか!

JA山田さん
ぶどう部会の売上は、平成6年度の45億円をピークに年々減少。平成23年度には21億円に半減しました。それから5年後の平成28年度に、41億円までV字回復したのです。この伸び率は、全国でも例がなかったそうです。

シャインマスカットとの運命の出会い?

JA山田さん
そうです。一番大きかったのは、「やる」と決断したこと。平成19年に国の試験場からシャインマスカットの苗木が全国に配られたのですが、最初からやろうという人は少なかったと思います。JA中野市では、早い段階でこれはいけると判断し、部会が中心となってプロジェクトを起こし、面積を増やして産地化を進めました。

でも、新しいことに取組むのは大変!

荻原さん
営農部の山田さんたちが育成金をつけてくれたり、栽培方法を指導してくれたり、巨峰のつくり方とはちがう簡単な方法を編み出してくれたのも助かりました。農家の高齢化が問題になっていましたから。

高齢化で辞めようという人が、思い止まった!

荻原さん
そうです。他のぶどうより栽培が比較的簡単なので、高齢で辞めていく農家も「これならできる」ということで、辞めるのを思いとどまることができました。

それで、シャインマスカットが定着!

情報がJAと農家をつなぐ

荻原さん
当時は気にしてなかったのですが、今思えばすごいこと。JAさんとタッグを組んで、最先端の取組みができていたのだと思います。

JAと部会のチームワークがいいですね

荻原さん
どうなんでしょうか。そうだとしたら、そういう伝統があるのかもしれませんね。

宙に浮かぶ7,000房、まるでモダンアートみたい。

うわ~、壮観! マスカットの楽園

柔らかな光に浮かぶ黄緑色のシルエット

荻原さん
今は出荷待ちの状態で、この畑でだいたい7,000房あります。

それにしても、きれいな形ですね

一房一房、作り手の思いがこもる

荻原さん
放っておくとシャインマスカットは、この3倍くらいの大きさの「だらだらだら」とした形になります。房とは呼べない垂れ下がり方。それを3分の1に整え、お店で売れる「形」にします。

まさに食べられる美術品!

荻原さん
上の方の実を落として、先端だけを商品にします。粒の数は、JA中野市は35粒。シャインマスカットは濃厚な甘味はもちろんですが、形や見栄えがとても重要です。この形に整えるために、先月まで腕をパンパンにして奮闘していました(笑)。

 腕がパンパン?って、どういうこと

鋏を入れて、房の形を整える

荻原さん
シャインマスカットは5月初めに発芽し、6月に花を咲かせます。そのあと房切り作業が始まり、続いて種を抑制するジベレリン処理を2回行います。さらに日焼けや病害虫から果実を守る袋がけ作業が待っています。

あ、ぜんぶ腕を上げての作業!

JA山田さん
そうです。どこの畑もぶどう棚の高さは180センチなのですが、房の位置は微妙に違います。腕を上げての作業が続くので、ちょうどいい高さに調整しています。だいたいの農家が、「かあちゃんの身長」に合わせています(笑)。

わかった!奥さんが一番働き者

荻原さん
いえいえ、家族総出ですよ(笑)。作業が始まると1週間ほどは、毎年やっている私たちでも、首と肩が痛くて、痛くてたまりません。

ところで、ジベレリンは農薬ですよね!

収穫前が、一番うれしい

荻原さん
はい。画期的な農薬です。ジベレリンはぶどうそのものが備えている植物生長ホルモンという成分で、これを外から与えて種なしぶどうを作ります。大きなカップに液体を満たし、一房一房浸していきます。作業はとても大変ですが、おかげで食べるときの煩わしさが解消され、ぶどうの価値が高まります。

やった、農薬がお役に立っている!

JA山田さん
今の消費者は、種なしで皮ごと食べられるぶどうが大好きですから。付加価値のあるぶどう作りに農薬は欠かせません。

他にはどんな農薬が活躍していますか

農薬のおかげで、ほとんど病害虫はでない

荻原さん
5月下旬から梅雨時にかけて、べと病、黒とう病、灰色かび病などの病気に効果がある農薬を散布しています。6月上旬にはハダニやブドウサビダニなどの害虫が発生しやすく、これらを駆除する農薬を使っています。

巨峰とは出る病気がちがう?

荻原さん
はい、巨峰とシャインマスカットでは出る病気が違います。と言いますか、ぶどうの種類によって農薬もきめこまかに使い分けています。

防除暦はありますか?

JA山田さん
はい。露地栽培では4月から7月の間に10回~12回ぐらい農薬を使っていますが、その間の病害虫の発生状況、散布時期、薬剤の配合量などを細かくまとめた防除暦をつくっています。これを全ての農家さんと共有して、農薬を効果的に使っています。

好調の今だからこそ、先のことを考える

情報共有が大切ですね

情報の拠点、JA中野市営農センター

JA山田さん
中野市のぶどう農家さんは、みんな熱心です。たとえば房切りやせん定を共同作業するグループがあるのですが、生産者が集まると「あの方法がよかった」「このタイミングがいい」とすぐに情報交換が始まります。価値ある情報は、あっという間に広まりますね。

素晴らしい伝統ですね!

誠実で優しい人柄が伝わってくる

荻原さん
若さもあると思いますね。私をはじめ部会の中心メンバーは40代半ば。みんな新しいことに意欲的です。もちろん、部会には大先輩方がいて、困ったときには舵を切り直してくれます。

部会の組織はどうなってます? 

荻原さん
ぶどう部会には部会長、副部会長の他に生産指導部長、販売部長、労務資材部長がいて、さらに各地区に支部長と2人の副支部長がいます。480人の大所帯ですが、何をやるにしてもけっこうスピード感がありますよ。

そうか、大事なのはスピード感!

二人とも同じ将来を見据えている

JA山田さん
部会が一致団結して進めるところは日本一だと思います。みんなが一つの方向を向けるから品質が整い、ブランド化も容易になります。「中野のぶどうなら間違いない」とお客様からご指名をいただけるのは、このパワーがあるからだと思います。

荻原さんのモットーは?

荻原さん
作り手として譲れないのは「味」です。いくら形を整えても肝心の味が最高でなければ期待はずれです。「中野のぶどうなら間違いない」というお客さまの声に、ずっとこだわっていきたいですね。

いよいよ完成形ですね

荻原さん
どうですかねぇ。たまたま今はいい感じで運営できていますが、これを続けながら、時代にあった形で変化して、継続していくことだと思いますね。

変化が必要ですか?

集荷場で、品質を最終チェック

荻原さん
そう思います。苗木400本でスタートしたシャインマスカットが、たった5年で中野のぶどうの35%を占めるまでになりました。当時は誰もが、夢にも思わなかった。時代はあっという間に変わります。だから今、先のことを考えないといけないと思っています。

シャインマスカットの次のこと

JA山田さん
私も「次のこと」を常に考えています。どんなに素晴らしい果実も、永遠には続きません。品質、味、省力化、すべてを高めながら、同時に新しい風をいつも感じていなければならないと思います。

新しい風ですか?

チームワークが伝統です

荻原さん
昔と今で変わったことが一つあります。昔はおいしいぶどうを作れば、誰かが買ってくれると思っていました。今は、お客さまに「どんなぶどうが食べたいか」を聞いてから作るようになりました。中野のシャインマスカットは、そうやって育ててきたのです。

具体的にどんな活動を!

JA山田さん
部会の消費宣伝会といっしょに「中野のぶどうはどうですか?」「これから食べたいぶどうは?」と、消費者に聞く機会をたくさん作っています。このヒアリングの結果を、ぶどう部会でシェアすることで、部員の意識が高まっています。

耳を澄ますのも、農業ですね!

ぶどう畑に、新しい風が吹く

荻原さん
色、形、食べ方、種のあるなし・・・お客さまの声に耳を澄ましていれば、次のぶどう作りがきっと見えると思います。
  • 長野JA中野市のシャインマスカット シャインマスカットは、ナガノパープル(長野県で育成されたぶどう)と同様に種なしで皮ごと食べられる黄緑色ぶどう。マスカットの香りがあり、甘味の強さは随一で、ギフトで喜ばれる高級感あふれるフルーツです。房形が整い、大粒で、ぶどうの先端が凹んだ形のものがあるのが特徴。完熟してくるとやや黄緑色に変化し、大変甘く濃厚な味に仕上がります。JA中野市では、日本一のシャインマスカットの産地を目指して栽培しており、将来巨峰に継ぐ品種と期待されています。

  • 長野JA中野市のシャインマスカット

シャインマスカット 栽培スケジュール