旬素材の産地から 富里ブランドをつくった1枚のカレンダー 榊原忠夫(さかきばらただお)さん 昭和8年に栽培が始まり、昭和11年には皇室に献上された富里スイカ。昔からのブランドと思いきや、知名度がグンと高まったのはここ数年のこと。その仕掛人、JA富里市西瓜部副部長の榊原さんを訪ねました。富里市は海に囲まれた千葉県の中でも内陸にあり、昼夜の温度差が大きく、甘いスイカができる産地です。写真は、国道409号線から見える巨大なガスタンク。千葉ガス㈱富里給油所のもので、ご当地カラーとして、スイカ柄を採用したという。直径が33.8mもあり、町のPRに一役かっている。

昨日、テレビ局の取材が来ていた?

JA富里市西瓜部副部長の榊原さん

榊原さん
はい、一日中、あちこちでロケしたので大変でしたね。すぐそこのスイカ畑でも撮影しました。テレビ局のスタッフは大所帯で、20人以上いましたね(笑)。

今日は、ゆっくり話せますね(笑)

榊原さん
よろしくお願いします(笑)。いろいろ取材の話をいただいて、本当にありがたいことです。でも、こうして全国区になったのは、ここ数年のことです。

え?富里スイカが有名になったのはつい最近?

榊原さん
そうです。昭和のはじめに皇室に献上したという逸話もありますが、それはもう伝説です。富里のスイカがブランドになったのは、ここ数年じゃないかな。

とみちゃんキャラクターも活躍している(笑)

元祖ゆるキャラ、とみちゃん

榊原さん
はい。とみちゃんは30年前からがんばっています。ゆるキャラブームのはるか前です(笑)。着ぐるみもありますよ。このキャラクターをはじめ、富里市を上げてコツコツとPR活動を展開してきたおかげですね。それからもう一つ、ブランドづくりに大きく貢献した作戦があるんです。

作戦ってなに? 好奇心200%!!

榊原さん
その前に、スイカ畑を見に行きませんか。榊原家の畑は今が収穫の最盛期で、80代のおじいちゃん、おばあちゃんから30代の息子まで、一家総出でスイカを収穫しています。

うわーでっかい。美味しそうなスイカ!

収穫したスイカは、大切に運ばれる

榊原さん
重さは4~5kgありますよ。最盛期の今は、毎日500個、250ケースを出荷しています。多い時は700個、350ケース出ることも。

スイカをピカピカに磨くんだ!

スイカに磨きをかけてピカピカに

榊原さん
ええ、機械に入れて磨きます。それからドドーッと倉庫一面にならべて、大きさ、重さ、形状などを揃えて等級別けして、箱詰めするんです。

JA富里市から全国へ配送?

榊原さん
農家で箱詰めされたスイカはJA富里市へ運び込まれ、そこから京浜、東北市場を中心に北海道から京阪神市場まで、日本の広い範囲に出荷されるんです。

JAのそばに直営ショップもありますね!

直営ショップも大にぎわい

榊原さん
一番食べてもらいたいのは、地元のみなさんですから。JA富里市産直センターという直販店があって、そこで販売しています。全国へ配送もできますよ。

スイカ栽培のポイントを教えて下さい。

種蒔きから収穫までのスケジュールは?

中型のトンネル栽培

榊原さん
富里での作型は、「ハウス栽培(5月ごろ収穫)」、「大・中型トンネル栽培(6月ごろ収穫)」、「小型トンネル栽培(7月ごろ収穫)」に大別できます。種をまくのは12月~1月頃。育苗ハウスで苗を作り、3月頃に畑に定植します。ハウス栽培の収穫がはじまるのは5月の中旬から。種播きの準備から収穫まで半年近くかかりますね。

一見普通のスケジュール。どこに作戦があるの?

榊原さん
この交配カレンダーを見てください。富里のスイカは交配後50日を目安に収穫します。これが「作戦」なんです。西瓜部に属する189軒すべての生産者は、カレンダーを壁に貼って、毎日眺めながら収穫に備えるんです。

交配後50日が、勝負なんですね?

壁に貼られた交配カレンダー

榊原さん
はい。スイカの甘みは、熟すことによって出ます。でも、熟す期間はほんの1、2日。これを見極めるのが難しい。私たちは、富里のスイカを研究し尽くして、交配後50日がベストという結論を出しました。この日に、すべての生産者が畑で試し切りをして、糖度や熟度を確認した上で生産者が責任を持って収穫します。

だからアタリ、ハズレがない!

甘くて美味しい富里スイカ

榊原さん
品質のばらつきがなくなりました。過熟も、未熟もほとんどありません。このスタイルで収穫しているのは千葉県だけです。他県の産地も視察しましたが、どこも集荷場にバーッと運び込んで、実を切ることなく糖度計で選果しています。スイカの「甘み」は、糖度だけではわからないのですが。

農家が責任を持つ、大切さ!

茎には交配カレンダーと連携し、収穫日が一目でわかるよう工夫されたカラーリボンが

榊原さん
交配後50日を目指して汗を流し、収穫から箱詰めまで生産者が自分でやりきる。そこがJA富里市の強みです。最後に自分の名前が入ったラベルを貼るんです。その瞬間、今年もやった、って感じですよ。おかげさまで、JA富里市西瓜部のスイカは、昨年クレームがゼロでした。

クレーム・ゼロの農作物って、あるんだ!

榊原さん
他の野菜や果物でも聞いたことないですね。189人すべての生産者のつくったスイカが、クレーム・ゼロ。生産者にとって、これほど誇らしいことはありません。

生産者189人がブランドですね。

189人の生産者、それぞれの名前が入るラベル

榊原さん
その通りだと思います(笑顔)。ラベルには生産者の名前がすべて入っています。みんなが気持ちを一つにして、手を抜かずに一つ一つのスイカを作る、これが私たちのブランドだと思います。

農家とのつき合い方を教えてください。

交配カレンダーには、農薬の使用スケジュールも。

農薬の防除カレンダーを見る榊原さん

榊原さん
農薬の使い方についても徹底的に研究しました。農薬研究会という組織に参加して、勉強会や工場見学に計30回ぐらい行きました。そこで得た情報を、西瓜部のメンバーに伝えるのも私の役目です。

精度高いですね、この防除カレンダー!

榊原さん
いちばん注意しているのは菌核病、うどんこ病、それとアブラムシ類の対策ですね。とはいえ昔と比べると農薬がずいぶん進歩して、今では病気や害虫への心配はほとんどなくなりました。

予防がいちばん大事!

元気いっぱいに育った富里スイカ

榊原さん
最近は予防を手厚くするようにしています。以前はあまり気にしてなかったのですが、10年くらい前に、とてもいい農薬がいくつか出たと聞いて試しました。すると、これが害虫や病気によく効くんです。交配前からやることで、大きな効果がありました。今ではJA富里市の西瓜部はみんな使っています。

害虫対策はどのように!

ていねいな手入れが、ブランドスイカを作る

榊原さん
スイカの敵、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマなどの主要害虫に効果がある殺虫剤の一覧表も用意しています。これを参考に、農家同士が情報交換しながら害虫に対応しています。富里ではミツバチを使って交配するのですが、ミツバチへの影響度合いも一目でわかるようにしています。

富里のスイカづくりの、これからは?

今年は豊作ですね!

軽トラックにてんこもり。今年は豊作です

榊原さん
ありがとうございます。おかげさまで作柄も最高、JA富里市上げて豊作に恵まれました。

おいしいスイカの見分け方を教えて?

榊原さん
どのスイカを手に取ってもらっても、必ず満足いただけるのが富里スイカです(笑)。

す、すみません(笑)

榊原さん
もちろん美味しい食べ方はありますよ。スイカは、芯がいちばん美味しいんです。だから芯をずらさないように切って、みんなで食べるのが一番です。

富里ブランドが目指すのは?

榊原さんが、生産者ネットワークの要

榊原さん
目標売上の達成はもちろんですが、来年も実現したいのはクレーム・ゼロですね。189人の生産者が1人も、市場からクレームをいただかない。これが究極の目標であり、富里スイカのブランドづくりだと思いますね。

ブランドを守るのは大変ですね!

元気いっぱいに育った富里スイカ

榊原さん
いえ、そうでもないよ。楽しいです。ブランド中のブランドになっちゃえば、天候がよくない年だって、富里スイカなら安心と思っていただけます。ブランドって、そういう不思議なチカラがありますから。

富里ブランドは、今が何合目あたり?

榊原さん
7合目か8合目じゃないですか。いいところまで来ていると思ってますよ(笑)

楽しみです! あぁ早く、富里のスイカが食べたい。

  • 富里市のある北総台地の土壌は火山灰土の軽い土で、この土壌に向いたスイカの品種が昭和のはじめに千葉県農業試験場で育成され、スイカ栽培が増加しました。1935年には富里村西瓜栽培組合が発足し、翌年には皇室にスイカを献上。栽培の統一、検査出荷の共同化で、新産地として名声を高めました。富里のスイカの出荷は5月中旬から7月中旬で、ちょうど梅雨の長雨の時期と重なります。これは必ずしも良い環境(気候)ではありませんが、富里市ではビニールハウス栽培によって、その条件を克服しています。毎年、最盛期には「すいかまつり」や「スイカロードレース」が行われ、大勢の人が集まります。

  • 富里のスイカ

スイカ 栽培スケジュール

殺菌剤を苗床かん注 殺虫剤を散布