旬素材の産地から 農業をおもしろく 八木輝治(やぎきはる) さん 第45回日本農業賞の大賞を受賞(個人経営の部)した凄腕の農業経営者がいると聞いて愛知県弥富市鍋田町へ。非農家出身の若手社員を束ね「田んぼ作業受託」経営で注目を集める農業生産法人 有限会社 鍋八農産 代表取締役 八木輝治さんにお話を伺いました。
弥富市鍋田町は、名古屋市の西20キロ圏内に位置し、木曽川を隔てて三重県に隣接しています。一帯は干拓で作られた海抜0メートル地域が広がり、昭和34年には伊勢湾台風で甚大な被害を受けました。耕地面積は1,920ha。
水田の面積が89%を占め、愛知県では水田面積比率が高いエリアです。

みんな、カッコいいですね~!

田んぼを愛する、鍋八の男組13人衆

八木さん
そうですか?鍋八農産の社員は総勢13人で、19才、21才を筆頭に若いスタッフが多いですね。若手はほとんどが非農家の出身です。今の日本の農業の現場では、「若さ」が売物になりますよ(笑)

あ、まず、『日本農業賞 大賞受賞』おめでとうございます!

八木さん
ありがとうございます。いやー、大変な賞をいただきました。JAあいち管内でも2人しか受賞者はいないそうです。ただ、当初はお断わりしようと思って・・・

え! お断わりしようと

八木さん
まだ45歳、若すぎると思ってノミネートをお断わりしていました。けれど、ここを立ち上げた親父と、親子2代で継続してよくやったと評価していただけるのなら、と思い直して。

お父さんと、2人で受賞!

事務所の一角に、賞状が飾られている

八木さん
父が鍋八農産を設立したのが平成10年、僕が受け継いだのが平成18年です。親父の名前が残れば本望でしたが、今回は「個別経営の部」の受賞なので企業名しか出ていません。でも父と私の二人に贈られた賞だと思っています。

田んぼの作業受託とは、どんな仕事?

鍋八にはトラクターが10台、コンバインが5台ある

八木さん
作業受託とは、農家にかわって田を管理する賃耕、賃刈のことです。弥富市の総農家戸数は1,337戸で、主業農家は12%ぐらい。兼業化が進んでいます。そこで水田作の基幹3作業(耕起・代かき、田植え、収穫)の受委託が盛んになりました。鍋八は130haくらいの田んぼの委託作業をしています。昔は田植えや稲刈りだけを受託すればよかったですが、今は1年を通して米づくりをしないとお金になりません。

大賞を受賞して、一番よかったことは?

八木さん
ほとんどないです(笑)。若干、お米が売れたぐらい。あくまで経営でいただいた賞で、お米がおいしいという賞ではありませから。あとは視察が増えたかな。

小泉進次郎氏が、視察に来られた

八木さん
ええ。でも賞とは関係ありません。それ以前から知り合いでした。知り合いの紹介で飲み屋でお会いして、農業の話で盛り上がったのがきっかけです。(笑)

進次郎さんは、どんな人?

八木さん
本当に熱心な方だと思います。全国の若い農業家と会っているそうで、おもしろいというか、僕たちとはまったく違う考え方をしています。

農業で1億円プレーヤーがでるべき!

大型の田植機を軽やかに操る八木社長

八木さん
たとえば、将来は農業で「1億円プレーヤー」を作りたいと言うのです。まさかと思って聞いていると、一般企業からは出るのにどうして農業からは出ないのか・・・おかしいと(笑)。小泉さんには日本の農業はこうあるべきというビジョンがあるのだと思います。

八木さんも負けずに熱い!

八木さん
僕も小泉さんに賛成です。日本の農業には、まだまだ大きな可能性があると信じています。だから、小泉さんには農業の変革を進めてもらいたいです。僕たちができることと政治家ができることは違います。お互いに健闘しようという関係でいたいですね。

田んぼ作業と、ITを結びつける

「豊作計画」ってなんですか?

八木さん
地元の大手企業トヨタが作ったIT農作業管理ツールです。

勉強会でトヨタ自動車と出会った?

作業がリアルタイムに「見える」トヨタの【豊作計画】

八木さん
地域の産業振興を目的とした会合にトヨタ自動車も出席していて、そこで喜多さんという社員の方と出会いました。自分たちの技術で農業を応援したいということで、あれこれ議論を重ねました。喜多さんはすごい人で、鍋八へ1年間出向したのです。トラクターはどう動かす? 一反耕すのに何分かかる? と米づくりのすべてを自分の目で見ていきました。彼とは、運命的な出会いでしたね。

田んぼの作業工程を平面図に!

八木さん
ある日のこと、喜多さんは「種まきから田植え、収穫まで、稲作の作業工程を一度平面図に落としましょう」と言うのです(笑)。メチャクチャ、新鮮でした。だって平面図ですよ。こういう風に農業を考える人がいるのかと・・・。そうしているうちに、「なんかシステムが作れるかも」と言い出しました。

さすが世界のトヨタ、徹底していますね。

八木さん
当時、4つの農業法人がトヨタとの勉強会に参加していて、その4社の耕作工程を平面図で比較しました。すると、やり方が違う。あるところは代かきに力を入れ、うちは、なんでもかんでも丁寧に時間をかけていることがわかりました。他にも機械を使うときの適正サイズなど、いろいろなことが見えてきたのです。

農家の声から生まれた豊作計画!

タブレットとスマホを使って、正確にオペレーション

八木さん
このツールのおかげで、リアルタイムで作業情報の受発信ができるようになりました。記憶に頼っていた作業が、過去の作業統計から最も効率のいい方法を選択できるようになり、2,000枚を超える圃場台帳の情報もデータ化できました。すべての農作業が、俯瞰できるようになったのです。

「見える化」ですね!

ITによって、スタッフの意識も変わる

八木さん
そうです。僕はスタッフに言いました。「これからはコンバインの現在位置から、1人1人の作業効率までぜんぶ見えるようになる。メチャ、おもしろいじゃん!」って・・・。みるみる全員の意識が変わりましたね。実際、「豊作計画」のおかげで、春は育苗に関わる作業が25%削減、秋は全体で10%の作業が削減できました。

スマホ片手に、田んぼ作業ですね

八木さん
事務所の地図でやっていたことが、現場のモニターで「見える」ようになりました。時間の使い方まで「見える」のです。この一連の出来事は、本当に、おもしろい経験でした。

「カイゼン」も始めた!

整然と配置された倉庫、これも「カイゼン」の成果

八木さん
はい。勉強会では「カイゼン」も勉強させていただきました。それを鍋八流に実践しているのが、小集団活動です。

小集団活動とは?

八木さん
4、5人がチームになり自分たちの課題を見つけ、2~3ヶ月かけて解決していきます。毎週水曜日の朝1時間を使って、「なぜこうなった」「どうすればいい」「今後どうする」と進めていきます。おもしろいでしょ。前回は、トラクターの鍵を一元管理する「鍵ボード」を設置しました。それまでは、鍵がよく行方不明になっていましたが、今では一目瞭然です。

ぜんぶ自分たちで考える!

ぴかぴかのトラクターが並ぶ

八木さん
そうです。大事なのは、自分でいま何をすればいいかを考えること。仕事の中で、その機会を作ることが、個人の能力を伸ばすことにつながると思います。

これぞ、人材育成ですね

八木さん
鍋八にはトラクターが10台あって、1人に1台あてがっています。19才の社員にも1台です。乗りたいから率先して免許を取りに行きます。自分のものだと思うと丁寧に扱うでしょ。乗り手が1人だと、調子がわるいと直ぐに気づくし、メーカーを呼べばいいか、自分で直せるかも判断できるようになります。

責任感を育てる!

機械をどう扱うかで、人の資質がわかる

八木さん
「自分ゴト」で仕事ができるようになれば、モチベーションが上がり、率先して仕事に取り組むようになります。時に若さで暴走することもあるけど、それもおもしろい。若いうちに責任感を育てることが、一人前になる近道です。

IT出身者も応募してくる!

八木さん
ええ。田んぼでスマホやタブレットを使うのが楽しいみたいです。今、農業を志す若者が増えています。ITを駆使した農業に取り組むことで、若手がもっと農業を好きになってくれたらうれしいですね。来年は、久しぶりに求人します。新しい事業をやるために。 

おいしい米づくりと、米の6次産業化

新事業って、なに?

八木さん
6次産業に力を入れます。米価に左右されない、安定した利益が上がる体質を作るための人材補強です。ポイントは商品開発と販路ですね。

お米の6次化ですか?

「商品」を通して、「声」を訊く

八木さん
これからの時代、田んぼ作業のアウトソーシングだけでは成長は難しい。作るだけじゃなく、どう販売するかを考えなくてはなりません。鍋八の米はスーパーや飲食店でも扱ってもらっていますが、今後は中食外食を開拓したいと考えています。将来的には売り上げの1/3を6次化にしたいですね。相当ハードルは高いですが(笑)

そのためには、おいしいお米づくり!

八木さん
その通りです。JAとの取引だと、収穫「量」だけで金額が設定されます。納入して終わりで販売はお任せです。ところが毎日食べる消費者は「おいしさ」で評価します。少し高くてもおいしいと買ってもらえるから、作り手としては、消費者が「どう食べたか」、「おいしいと思ったか」が気になるじゃないですか。もうJAに任せっきりの時代じゃないと思います。

もっと、消費者を意識する!

八木さん
おいしい米づくりも、お米の6次化も、日々勉強の積み重ねだと思っています。だから、社員みんなで米づくりの講習会を受けたり、さまざまな勉強会へ足を運んでいます。消費者の身になって、一生懸命、お米に向き合うことが一番大切だと考えています。

だから、おにぎり専門店を作った!

アンテナショップ、おにぎり専門店「きはち」

八木さん
おいしいお米を作るには、食べる人の意見を聞くことが一番。そう考えて、直営のおにぎり専門店を作りました。自分が作ったものを消費者がどう評価するか、それを社員一人ひとりが肌で感じるためのショップです。他にも、もち、おはぎ、赤飯、パンなどのお米の加工品をいろんなルートで販売しています。

今年の、お米のでき栄えは!

デザイン会社とお米の新パッケージを開発中

八木さん
収穫がやや早まっていますが、収量は昨年より増えています。地元の推奨米「あいちのかおり」は、今年もいい出来栄えです。大粒でしっかりした食感が寿司にぴったり。ぜひ全国の人に味わってもらいたいです。

農薬は、お役に立っていますか?

八木さん
お世話になっています(笑)。農薬はどう使うかだと思います。必要なときに必要な量をバシッと使う。うまく使えば千円で、2千円の効果が出せます。また農薬業者とタッグを組んで、新商品をいち早く取り入れ効果を上げています。

病害虫防除のスケジュールは?

カメムシは、おいしいお米の大敵

八木さん
6月、7月期にカメムシ対策の防除剤を使用します。カメムシが稲を吸うと米が黒ずんで収量に響きます。JAのラジヘリで共同散布してもらっています。3月中旬〜5月中旬の育苗期には病気を抑える農薬を使用。さらに4月10日〜6月中旬までの田植期にはメーカーと相談して、最適な殺菌剤を散布しています。

ITで農薬をかしこく使う!

八木さん
「豊作計画」があれば、いつでも農薬コストが確認できます。無駄をなくし、必要なところにお金をかける勘が磨かれます。これまでの散布データもすぐに確認できるし、メーカーの新製品データも共有できます。ITを使って、かしこく農業を行うことでより品質のいい米づくりが可能になるのです。

穂一本も残さない収穫が実現!

機械ができないところで、仕事の差が出る

八木さん
鍋八の管理する田んぼは、雑草が少なく、実りも豊かとお褒めの言葉をいただいています。これはITと農薬のコラボレーションのおかげです。機械と人の連携のたまものだとも思っています。大切な農家さんのお米を、穂一本も残さず収穫すること。それが私たちの使命だと思います。

社長にとって、一番悩ましいことは?

八木さん
人材の育成に尽きますね。無駄なく、たくさん収穫ができる人は優秀です。でもそれを自分だけでなく、みんなで共有できる人はもっと優秀です。それがわかっている社員が、1人でも多くなってほしいですね。

昔と違って、農業もコミュニケーション!?

農業はコミュニケーションという八木社長

八木さん
農業家は寡黙であってはいけません。昔のように決められたことを黙々とやっていればいい仕事ではありません。いろんな人とコミュニケーションして、情報を仕入れて、共有して、それをどう使うかを話し合っていく。コミュニケーションこそが農業の根幹だと思います。

だから、小泉さんとも飲み屋で出会う(笑)

八木さん
あはは。日本中に、優秀な方がたくさんいます。そういう人と会って、ヒントをもらって、ノウハウを教えてくださいとお願いする。稲作の全国組織の集会、講演会、懇親会へはどんどん顔を出しています。そこで、おもしろい人と知り合うことが、一番、刺激的ですね!

社長、農業を楽しんでいる!

八木さん
はい。社員みんなと、楽しんでいきたいと思います。
  • 愛知県は一年を通じて比較的温暖な気候と、豊かな水資源に恵まれたお米の生産に適した土地です。近くに大消費地があり、多くが県内で消費されています。愛知県のお米で有名なのは「あいちのかおり」。愛知県で最も多く作られており、大粒でしっかりとした食感が人気です。愛知の中山間地域などで栽培されているのが “山の幻”とも言われる「ミネアサヒ」。つやつやと美しい炊き上がりが自慢のお米です。日本で最も多く作られているコシヒカリも、県内で生産されています。お米の生産高は310億円で、全国第20位です。(農林水産省平成25年作物統計)

  • 愛知のお米

米 栽培スケジュール